オアシスとスラム街

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慣れ親しんだ東京の西から東へ引っ越した。引っ越した理由は民泊開業。新居の近所には友人がいた。その友人が引っ越しの後押しをしてくれた。

引っ越しを終えると、友人、知人、職場の人から決まってこう聞かれた。
「引っ越し先はどう?」
僕も決まってこう答えた。
「治安のいいスラム街みたいだよ」
その街を知る人には大概ウケが良かった。

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街には昭和からの小さい戸建てが密集して、酒場や食堂は大衆の文字が似合っていた。そして実際に治安も良かった。人の距離感も近く、気軽に声をかけるおばちゃんの姿も目立つ。さらにコントで見るような千鳥足のおじさんや、未だ町工場が多いせいか、見てそれと分かるおじさんも多い。

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僕は他人とすべてを理解しあえて付き合っていこうという考えはない。互いに尊重、又は寄り添う付き合いがあってもいい、いやほとんどがそうだと思っている。だが、頭を悩ませる出来事が引っ越し先であった。

近所のおじさんの事だ。
おじさんは小さな工場を経営している。いわゆる町工場というやつだ。年齢は70代だろうか。おじさんというよりも、おじいさんの方がしっくりくる。詳しく聞いてはいないが、昭和から続いているであろう工場は、その様子から一人で経営しているようだった。
とある休日の昼間、申し訳ない程度の広さではあるが、我が家の庭で寛いでいた。折り畳みのキャンプ用の椅子に座り、片手には買ったばかりの旅の本を広げていた。
本を読み始めて30分くらいは経過しただろうか。ふと本から50メートル先の道路へ目線をあげると、工場のおじさんが目に入った。
「こんにちは」
静かな住宅街だから、声量は少なくていい。口を開きながら頭を下げた。しかし、おじさんはなぜか怒っていた。
「なんだッ!!!?」
相手の声は僕まではっきり届いた。もう一度頭を下げた。
「なんだッ!!!?」
同じセリフだった。
おじさんと僕は普段顔を合わせない。おじさんの工場と自宅は別の場所。おじさんの出勤前に僕は家を出て、帰宅する前におじさんは工場を閉めるからだ。
僕のことを忘れたのかもしれない……。
おじさんには引っ越しをした当初に挨拶はした。おじさんは高齢だ。忘れても仕方あるまい。僕はおじさんのもとへ歩いた。
「こんにちは。そこに住んでいる者ですが……」
「わかんねーよ、そんなとこ座ってたって」
強い口調で話しが噛み合わず、説明する気にもならなかった。
「そうですか……」
二、三歩後退りをしてから、おじさんに背を向けた。
僕のこと忘れちゃったんだな。
強い口調に不快感が残ったが、忘れたならば仕方がない。見知らぬ男が近所で座って本を読んでいたら不審に思うかもしれない。あるいは高齢だけに軽い認知症だって不思議じゃない。気にしないことにした。

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それから数週間後、その話しをおじさんから耳にしたと、近所に住む友人が口を開いた。

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その内容は、僕の存在は覚えているが、手を挙げて偉そうにしたから(怒鳴ったの)だと話しているようなのだ。
僕は真剣に頭を悩ませた。
手を挙げた記憶はない。もしかしたら二度目に怒鳴られた時に、相手が見えないのかと思い、手を挙げたかもしれないが記憶にない。
しかし仮に手を挙げたとしても、それがすぐに偉そうな態度に繋がるのだろうか。目上の人に気安く手を挙げる態度が失礼に価する感性は承知している。今まで上司やクライアントに手を挙げて挨拶をしたことは一度もない。年上でも親しい友人なら何度もあるが、最初からそうだったわけではない。しかし今回は親しくもない近所のおじさんだ。多分手など挙げていない。仮に挙げても頭を下げながら、相手に見えるようにしたのならば、その態度から分かるはずだ。表情は笑顔。これは記憶にある。
記憶にない手を挙げたこと。もしそれが事実で怒ったのならば、わかんねーよ、そんなとこに座ってたっての台詞は一体なんだったのだろうか。友人に話した内容とその時の台詞が噛み合わないのだ。そして失礼という側面から見ると、いきなり怒鳴る行為は失礼に値しないのだろうか。
一体これからおじさんとはどう付き合っていけばいいのだろうか。考えた。答えはすぐに出た。それでも寄り添えばいいと。近所として。それしか答えがなかった。

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最近飲みに行く回数が増えた。元々酒が好きな性分に加え、引っ越しが落ち着いたせいもあったが、何となく家に帰りたくない想いがそうさせている側面もあった。

酒場のカウンターでスマホを開いた。普段見ている民泊情報サイトには、外国人宿泊客絡みのトラブル体験を多く目にしたが、外国人宿泊客が絡まない近隣とのトラブルは全く目にしなかった。当たり前だ。それは単なる近隣トラブルだからだ。肩を落とすしかなかった。
スマホの画面をSNSに変えた。すると慣れ親しんだ街並みがタイムラインに流れ、やけに眩しく見えた。
あの街が恋しい。
初めての感覚だった。

普段は口にしない濃いめのサワーが身体に染み渡り、どこか遠くへ旅に出たくなった。

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